2002/11/25

11月25日(月)

 自宅のそばのローソンに、「イトー」という若い男のアルバイトがいる。イトーは主に深夜勤務らしく、自分が深夜帰り道の途中で立ち寄ると、二・三度に一度の割合でイトーにあたる。

 イトーはお世辞にも男前ではなく、かといって呪われたようなブ男でもない。けれど、いつも仏頂面をしているので、「ひねくれ顔経由ブ男行き」な顔になっている。それでも、表情は仏頂面だけど内面は大変よろしい、というのならば救いがあるのに、イトーときたら顔と性格がそのままイコールになってしまっている。

 イトーはいつも何かに不満を持っているらしく、「いらっしゃいませ」も「ありがとうございました」もロクに言わないし、ひどい時にはバックヤードに引っ込んだまま、呼べど叫べど出てこない。客が自分ひとりの時は、1・2分待ってあげる事もさほど苦にならないのだが、他の客に後ろに並ばれるとこちらとしても気が気でない。

 自分は決して悪くはないのに、なにかこう、「若造の店員一人ロクに引っ張り出せない使えないオジサン」という烙印を無言のうちに背中に叩き付けられているような切ない気分になる。

 出て来い。

 イトーよ出て来い。

 お前はきっとバックヤードで世をすねて報われない世界中の自分と同じ人種の若者の代表として世間のヤツラにロックンロールな呪いをかけているのかもしれない(予想)。

 それはそれで大変に重要な作業だと言う事もよく解るが、今日のところはひとつ俺様の顔に免じて出てきてレジを打ってはクレマイカ。

 頼む、イトー。

 お願いだ、出てきてお前の熱いレジさばきを拝ませてくれ。

 イトオ!イトオ!イトオ!早く出てこないと、おでんにガム入れちゃうぞ。

 そうして、さんざんじらされた後、やっと出てきたイトーが救いの神に見えるなんて、俺もまだまだ修行が足りないのかもしれない。

 ああ、よかった。

 帰っちゃったのかと思ったよ・・・。

 いやさ、帰っただけならいいけれど、呪い返しでも食らって動けなくなっているんじゃないかと心配したよイトー。

 と、普段はこれで終りなのだ。ところが、先日はとうとうとんでもない事が起きた。

 その時自分は、イトー待ちの三番目で、ご無体な烙印から逃れた事に満足して悠々とイトー待ちをしていた。いや、むしろ先頭のお姉さんにどんな無体な烙印を押してやろうかと内心ウキウキしていたのだ。

 お姉さんは「すいませーん、すいませーん」と徐々に声を荒げているのだが、それはイトーにとっては逆効果であることを知らない。

 バックヤードからは煙草のニオイが流れ出していて、誰が見てもそこに人が居ることを如実に物語っている。恐らく、列に並ぶこの三人の中で、ヤツがイトーであることを知っているのは俺一人だ。

 故に、ヤツが今しているのは、休憩中の喫煙ではなく、大事な儀式の最中であることを知っているのも俺一人と言う事だ。ここはひとつ、イトー歴の長い俺がイトーにかわって事情を説明し、皆の苛立ちをなだめなくてはならないのだろう、と思っていた矢先に事件は起きた。

 イトー待ち二番目の客(一見中年の白髪の男性。作業服着用)が、突然カウンターを蹴り飛ばした。

 グバン!という音とともに、おでんのつゆがタッポンと大きく揺れ、床に飛び散った。お姉さんは悲鳴とともに首をすくめ、カウンターの前を離れた。

 白髪中年作業服は、続けざまに「出て来い!」と叫び、もう一度カウンターを蹴飛ばした。

 アワワワワ。

 どうするイトー、と思うまもなくノソリとヤツが現れた。時代劇で、「先生!」と呼ばれて用心棒が現れる、あのタイミングであのイトーがあの仏頂面で登場した。

 俺は内心拍手喝采なのだが、白髪中年作業服は只今大三元聴牌中で鼻息全開である。

 さあ!どうするイトー。

 どう凌ぐイトー。

 ドキドキしながらイトーの出方を伺っていたら、ヤツはまるで何事もなかったかのように無言でレジを打ち始めるではないか。おい、それはないだろ、イトー。ここまで舞台が出来上がっているのに、ノーリアクションはないだろう。寂しすぎるぜイトー。おでんのつゆがまだタパタパいっているし、ここはひとつ「逆上おでん返し」くらいの荒業は見せろよ。

 だが、こちらの期待とは裏腹に、イトーは黙ってレジを打ち、お姉さんから何がしかのカネを受け取り、幾ばくかの釣りを渡している。

 じゃあせめて先にのろしを上げた白髪中年作業服に期待を、と思ったら、こいつもこいつであっという間に冷静さを取り戻して、ポケットから財布なんか取り出している。

 お、お前等一体ナンナンダ・・・。

 ハーイ!ハイ!ハイ!あなたたちちょっと待ったちょっと待った。おかしいですおかしいです。間違ってますよー。

 ハイ!まずはイトー。

 あなたは職務怠慢の世をすねただらしない男ですね。その設定で間違いないですね。

 ま、お姉さんはヨシとして、白髪中年作業服のお前。お前がしっかりしなきゃ。お前は深夜まで仕事をして疲れて帰ってきたところだね。早くうちに帰ってメシ食って寝たいわけだ。なのにレジの野郎がだらけて出て気やがらねぇ。アタマ来るねぇ、アタマ来るねぇ。仕事のストレスも胃のあたりに残ってるねぇ、残ってるねぇ。なんだか人生とか社会とかそういうものに対する不審感は年々強まってるねぇ強まってるねぇ。レジの野郎、まだ出てこないねぇ。前のネエチャンの「すいませーん」もだんだん耳障りになって来たヨネぇ。あーもう、イライライライライラ。

 ・・・・ドッカーンだ。

 ハイ、ドッカーンだホラ。

 やったよやったよ、ヤッテシマイマシタヨ!おでんもドパーンと来たね。

 「早く出て来い」もよかったよ。正確にはトーホグ弁で「ハヤグででこい!」だったねぇ。決まったねぇキマッタネェ。一世一代の大啖呵だ。お姉さんも思わずキャーだものねぇ。黄色いねぇ黄色いねぇ。

 で、ようやく野郎が登場だ!なのに詫びの一言もないよ、これが。ええ、おいどうなってんだ!?違うだろう違うだろう。ヨノナカってそういうもんじゃねえだろ。なぁ、おい。昭和生まれには粗末にしちゃいけねぇケジメってもんが体中に染み付いてるはずだよねぇ。安田講堂に青春を置き去りにしてきてしまったけれど、心の闘争は未だ完結してない筈さぁ。上を向いて歩こうよ、オリンピックの顔と顔。わがままは男の罪で、それを許さないのが女の罪だ。昔君といった映画がまた来るのに傘が無いときたもんだ。ホラホラ、カウンターがずれてるよオイ。

 ああ!つゆと一緒にはんぺんも場外転落だぁ、ゲバゲバだぁ、青島だぁ。

 ああもう大変だぁ!・・・って、何でオメえらは何事も無かったような顔出来るんだよ。

 逃げてない?逃げてマセンカ?

 もう、何がイヤって、こういう雰囲気の中、一番最後に会計する俺の身にもなってみろって。

本日の売上=12650円(12人)
内訳(
少年漫画?5300円、
一般書(小説等)?3300円、
雑誌?1050円、
プレミア?3000円)
買取=9500円(4人)
現金残高=3150円
来客数18人
レジ打ち12人
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2002/11/18

11月18日(月)

 先週の風邪には参った。結局あの後、メタメタになってしまった。早引き2回、休業1回の憂き目に遭った。

 年齢のこともあるのでしょうが、日ごろの怠惰で不摂生な生活が、確実に肉体を衰えさせているのだと思う。それと、貧乏だから栄養のあるものが食べられないという現実が、弱る体に拍車をかているのだと思う。

 だが自分の場合、あれが食いたいこれが食いたいという「食」に対する欲求が極めて希薄なので、栄養面での健康管理は今後も期待できない。

 なのでこれからも度々風邪をひくことになるのだろうと思うので、そこんとこヨロシク、ってな感じである。

本日の売上=10620円(13人)
内訳(
少年漫画?7560円、
少女漫画?760円、
一般書(小説等)?1400円、
雑誌?900円)
買取=5150円(5人)
現金残高=5470円
来客数不明
レジ打ち13人
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2002/11/11

11月11日(月)

 不覚にも、また風邪を引いた。今回のはちょっと辛い。野球で言うとノーアウト2・3塁クラスか。それでも、ヒットで2点ならばまだ大丈夫。これがホームランだと逆転される。

 ここまで5イニングを3失点で切り抜けてきた自分としては、この急場を何とか凌いで勝ち投手の権利を得たいところだ。

 こんな時、あなたならどうしますか。全力投球ですか。敬遠で満塁策ですか。どちらにしても逆転の芽は残り、尚且つ致命的な痛打を浴びた後の後遺症が残りそうだ。私なら、素直にマウンドを降りる。そして、次回の登板に備えてじっくりと休養する。

 という訳で、実は今日は休業にしようかと思って、午後1時近くまで布団の中にいたのだが、熱はたいして無いし食欲もあるので、無理をしない事を条件に店を開けることにした。

 だが、ああ何という事か、今日は日記の日じゃないか。つい先だっても体調不良でいい加減な日記を書いてしまったばかりだというのに、またぞろ同じ事をしてしまっては、「この日記だけが生きる糧」という全国70人の読者の方に申し訳が立たない。

 が、立たないけれどこういう日ばかりは許してはもらえまいか。

 とか何とか言っているうちに、ベンチから監督が歩み出てきた。

 しめしめ、渡りに船だ。

 ではまた来週。

本日の売上=13670円(24人)
内訳(
少年漫画?5420円、
少女漫画?1800円、
一般書(小説等)?750円、
雑誌?5700円)
買取=1700円(2人)
現金残高=11970円
来客数不明
レジ打ち24人
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2002/11/04

11月4日(月)

 「闇の書店」というのをご存知だろうか。恐らく、一般の方では殆どの方が初耳のはずだ。

 なんとなく聞いた事がある、あるいは風の噂で聞いた事がある、という方がいるかも知れないが、その全貌に関しての知識は無いだろうと思われる。

 「闇の書店」に関しての記述は、実はかなりの危険が伴う。かく言う私も、この件に関して世間に公表すべきかどうか、随分悩んだのである。大袈裟でなく、生命の危険が伴うのだ。

 どのくらい危険なのかというと、「クイズダービー」で、一問目から篠沢教授に全額賭けるくらい危険なのである。

 そして、どのくらいの確率で消されるのかというと、竹下景子が三択をモノにするのと同じくらいの確率である。はっきりいうと、自殺行為である。

 そんな危険な目にあってまで「闇の書店」を公開することに何か意味はあるのか。誰もが疑問に思うだろう。当然の事だ。それを公開することで、「私」という貴重な存在が霧消してしまうなんて、国家的損失なのではないか。そういう危惧も、もっともなことである。

 だが、世の全ての悩めるコレクター諸氏の為にも、書かなければならないのだ。例えこの身が朽ちようとも、こればかりは伝えておかなければならない。

 それが、私に残された「最後の義務」だと思ってもらいたい。

 さて、皆さんは普段、こう思った事はないだろうか。

 「いくら数が少ないとはいえ、大量に発行されたはずの本が、何故こうも見つからないのか」

 激レアと称される数々の本。帯がレアだ、初版がレアだ、最終巻は幻だ。各書店ごとの謳い文句は様々でも、その評価に応じた値段はほぼ全国共通だ。然るに、それらの本が出現する場所は総じてランダム。

 「なるほどここなら」と思える所よりも、「何故こんな所に」と思わせるような場所によく出現する。おかしいと思いませんか。その他、数え上げたらきりが無い、人それぞれの無数の疑問。

 それらの疑問を解く前に、皆さんには古本屋の買取現場を思い出していただきたい。多くの人は、その現場を見たことが無いのではないだろうか。また、その機会に恵まれたとしても、どんな本が入ってきたのかシゲシゲと眺めた事は無いのではないだろうか。そのときの様子を、ようく思い出してみてください。

 全部でいくらになります、買取票にご記入お願いします、はいこちらがお金です、どうもありがとうございました。という一連のやり取りの後、そそくさと本を裏へ隠してしまう店主のあの不穏な動き。

 ここで一つ答えを出そう。世の中に大量に出回った本が、その後の様々な事情により、現存数が少なくなったなんてのは、古本屋の流したデマである。

 「猫又」の帯付だろうが、「座頭市」だろうが、「魔法使いサリー」だろうが、そんな本は日々当たり前に入荷しているのだ。ただ、それを即、自店では販売できない事情があるのだ。

 その事情を明らかにしようとした時に、避けては通れないものがある。それこそが、「闇の書店」なのである。

 そして、かく言う私も「闇の書店」の一員なのである。

 蒐集家をケムにまき、一般客を食い物にし、仕切り場の紙の山に潜り込み、病人の書架を漁る。複数のオークションIDを持ち、千円の本を五万円に吊り上げ、ライバルの出品者は悪評価の連続で木っ端微塵。

 東に老いた蒐集家があれば、行ってコレクションを根こそぎ奪い、西に新人ありと聞けば、親切顔で不良在庫を売りつける。

 北に経営不振の貸本店があればとどめを刺し、南に大型店あれば無法者達を送り込む。騙せるものは親でも騙す。勝手不埒な悪行三昧。

 それが私に科せられた使命であり、全国に数多いるそれら使命を帯びた「闇店員」を統括しているのが、某県に総本部を置く「闇の書店」である。

 「闇の書店」の目的は、全国の絶版書籍の統括・管理であり、それにより売値の高騰を操作している。そして、世の蒐集家を生かさぬよう殺さぬように、小出しに稀覯本を流通させる。その流通先が、毎回抽選で決められる為、先の疑問が生まれるわけである。

 時ならぬ稀覯本の流出に、コレクター達は右往左往。東北がいいとか中国地方がいいとか慌てふためいている内に全巻揃いのものが1冊欠け2冊欠け、帯が有るとか無いとか言っている内にカバー背上部に少イタミなど出来てしまったりするのである。

 さて、今夜は仙台支部(宮城野区)で本の回収が行われる。私も、店内のダンボール箱に乱雑に詰め込んだ絶版書籍を運び込まなければならない。この時、いつも思っていた。誰かこれらのダンボールを1箱50万円で買ってくれないものかと。折り目一つない新刊同様の絶版書籍がぎっしり詰まったこの箱を・・・。

 そうすれば、自分はきっと高額納税者となって、新聞の長者番付のきわめて上のほうに、この名を記す事もできたのに。

 しかし、そんな願いも今夜を限り。「最後の義務」を果たした私は、納税はおろかこの世の全ての義務から解き放たれる事となる。

 何故といって、この日記が公開される明日には、私は組織に追われる逃亡の身。今回の回収で得られる僅かなカネを握り締め、どこか遠い北の国に向かっている事だろうからだ。

 「闇の書店」は裏切りを許さない。全国の「闇店員」から付け狙われる日々が続くのだ。

 ああ、世の蒐集家諸氏よ、我こそは日本一と自負する誇り高き蒐集家達よ、あなた方は・・・あなた方は踊らされているのです・・・。

本日の売上=26790円(17人)
内訳(
少年漫画?5150円、
少女漫画?2400円、
一般書(小説等)?2000円、
雑誌?250円、
プレミア?17000円)
買取=9950円(9人)
現金残高=16840円
来客数不明
レジ打ち17人
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