2002/12/30

12月30日(月)

 朝一番、店のシャッターを上げた途端、ウンザリするような光景にぶち当たった。大きなダンボール箱が捨ててある。開けて見ずとも、中には不要本が入っている事ぐらいすぐに解る。

 以前はたまにあったのだが、このところすっかり無くなっていたので安心していたのに、またもやられてしまった。世の中には古本屋をゴミ処分場か何かと勘違いしている人間がまだまだ多い。

 おそらく昨日今日あたりに大掃除でもして、不要な本や新聞紙が大量に出てしまったということなのだろう。それで、細かく分類して捨てたり売ったりするのが面倒くさいから、近所の古本屋にでも置き捨てておけば、何とかしてくれるだろうと考えたのだろう。

 まったく、顔が見たいもんだ。と憤りを露にしつつ中を見た。と、いきなり目に飛び込んできたのが、太陽のマーク。あれ、サンコミじゃないか。そのマークを見た途端に、この箱を置いていかれた方のご尊顔をぜひ拝見したくなった。

 見ると、全ての本が整然と詰め込まれていて、背表紙の一部が伺える。一見、かなり古い本の様子。突然、背筋に冷たいモノを感じ、やにわに上の数冊を取り出してみた。

 うわー!雄叫びが、若林区上飯田1丁目界隈にコダマした。なんと、手に取った4冊が全部、平田弘史の「座頭一」だ。しかも帯付!いつの間にか俺は、たった今上げたばかりのシャッターを降ろしていた。

 こんな現場を何処かの誰かに見つかったらエライコッチャ。

 薄暗い店内で、次から次へと本を引っ張り出すと、出るわ出るわ、稀覯本の雨あられ。しかも底の方に行けば行くほどランクが上がって行く。足塚の「ユートペア」、永井豪の「4丁目が戦争です」、水木しげるの「妖記伝」、そしてなんと手塚治虫の「モーモーン山のあらし」。

 おお!あの伝説の本の数々が!喜びと畏怖の念に打ち震えつつさらに底に進むと、なにやら茶封筒が一通、本に挟んであるのに気がついた。その本を取り出し(なぜかガロの創刊号だった)、茶封筒を抜き取った。

 場面が場面だけに、本来ならば一番最後に内容を確認するところなのだが、何か気になって、封筒の中に指を突っ込んだ。指先にあたった紙片をやおら取り出すと、そこには筆で書かれたへたくそな文字で、

 「500万円にせよ 闇の書店」とあった。

 「闇の書店か!とうとう俺にも”その時”が来たか」

 俺は奥歯をギリリと噛み締め、ついでに紙片もジミミと握り締めた。闇の書店からの闇指令。この密令を受けたものは、命を賭してでもその任務を遂行しなければならない。

 死人が出るかもしれない・・・。そうだ、安易に動いては確実に死者が出る。慎重に計画を練り、冷静に行動しなければならない。俺は、血の上った頭をクールダウンすべく、煙草に火をつけた。

 なるほど、これらの本をさばいて、500万円か。金額的には大きくとも、モノがモノだけに、その線は楽に越えてゆくだろう。そして、越えた分がこちらの取り分というわけだ。一体、どの位の利益を生み出せるのだろうか。俺は改めて本を眺めまわした。

 うーむ。「座頭一」の帯付・・・。ム!座頭一?座頭一!?あれぇ!?ああ!ユートペアだ!足塚・F・不二雄Aってなんだよ。4丁目だって?妖記伝だシ!モーモーンかよ!(ガロだと思った本は、がぐち、だった)全部ニセモンじゃねーか!しかも中は白紙!奥付ばっか丁寧に書きやがって。こんなモン売れるわけねーだろ!売れるはずねーよ。

・・・売れないよなぁ・・・多分売れないよ・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・待てよ・・・・・・・。どうせこれらを買うのはコレクターだよなぁ・・・・・。そうだ、コレクターは中なんか見ねーよ!背表紙さえ綺麗で、それっぽければ売れるんじゃねーか。そうだ、きっと売れる。・・・・だがしかし!自分で売るのはいかにもまずいよな。

 そうか、同業者に流せばいいんだ。「本の舎(いえ)」でも騙して売りつけようか。いやぁ、でもあそこの店主はしっかり者だから、もっとズボラで騙し易い方がいい。となると、もう「本曜日」しかないだろう。

 世間の噂では、あそこの店主は囲碁のやりすぎで廃人となり、もはや白いものと黒いものの区別したつけられなくなっていると聞いた。貯金はしこたま有りそうだし、それよりなにより俺が騙さずとも、いずれ誰かに騙されて、幸福を呼ぶ碁石なんか買わされてしまって、丸裸にされてしまうのだろう。だったら今のうちに俺の手で引導を渡してあげたほうが孝行ってもんだぁね。

 ムハハハハ。来年は年頭からビッグ・ビジネスじゃん。

  と、いうことで、今年最後の日記です。なんだか今年は悪態ばかりついていましたね。これでは、今まで世間でまことしやかにささやかれてきた「白い歯もまぶしい、素直で実直でクールな二枚目の好青年」という私のイメージが台無しです。

 どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。確かはじめの内は、その日にあった本当の事だけを書き記す筈だったのに、いつの間にか、昔と同じような大ウソ日記に成り下がってしまった。そのせいか、最近ではアクセス数も激減しているらしい(自分では確認していないので、ヨソの人に聞いている)。

 店頭売りも「毎日が月曜日」状態だし、考えてみれば、このところは漫画本の更新もしていないから、ネットでの売上は殆どゼロに等しい。自分の場合、「一人食える分」だけしか眼中に無いから
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2002/12/23

12月23日(月)

 昨夜、寝る間際に読んだ本に、こんな文章があった。

 「僕は携帯を持っている」

 この文章の意味は読んで字の如くだが、現代でしか通用しないかなりヘンな文章です。まったく、我ながらつまらない本を読んでしまったものだと思うが、なかなかに象徴的な文章ではあります。

 「携帯」というのは他動詞だから、上記の文章には動詞が二つ並んでいる事になる。これを他の言葉に置き換えると、「占有を独占する」と言っているのと同じで、これは現代でも通用しない妙な文章です。

 こんなのは今時誰も気にしない瑣末な問題で(本当は重要だと思うのだが)、他にも数え挙げればきりがないほど世の言葉は乱れている。客商売をはじめてよく分かったことの一つに、子供たちの言葉遣いの狂いがある。

 最近では、友人と二人連れで入店した子供達が何やかやと話しているのを聞いていて、お互いの意思の疎通を全く無視した会話が主流であるということに驚いた。

 「これ、持ってるシ」

 「2巻みたことないシ」

 「100円だシ」と、お互いが「シ」で止めるヘンな会話をしているケースが多いのだ。

 「シ」で止められれば、普通は「で、そのつづきは?」となりそうなものなのだが、延々とお互いに「シ」で止める会話を続けているのだ。彼等はそれで会話が成立してるのかと、可笑しいのと同時に寒い気持ちになった。

 言葉遣いがおかしいと、頭も悪く見えてしまうもので、かわいそうだが彼らをはじめとする「ヘンな言葉軍団」は、俺の中では偏差値が低い。ついでに言うと、買取金額も低い。スマン。

 さて、話は変わってそろそろ年末である。否が応でも年末である。正直な話、年末などどうでもいいが、世間が年末を理由に古本屋をいじめるのならば、こちらも年末を理由に何か逆襲の手立てを考えなくてはならない。

 年末だから5割増しとか、年末だからセット販売のみとか。年末だから買取り不可というのもいい。だがしかし、どれもこれも面倒くさい。一番自分向きなのは、年末だから休業というヤツか。最近の売上からしても、これが一番理に適っているような気もする。

 聞くところによると、この業界はどこもかしこも業績不振だそうだ。それはウチとて例外ではなく、特に漫画がさっぱり動かなくなっている。

 唯一売れるのは、150円のバラ本。しかもお一人様一冊ときたもんだ。別に数量制限はしていないのだが、皆さん律儀に一冊ずつしか買わない。プレミア本じゃないのだから、一冊ってのはやめて欲しい。

 で、買取は一人で山ほど持ってくるから(主に戦力外商品)、尚やっかいだ。仕方がないので、そういう本はまとめて処分する事になるのだが、これにかかる労力と経費ががバカにならない。まがりなりにも金を出して買取っている本だから、いくばくかでも利益にしたいところなのだが、それを期待していたらいつまで経ってもゴミに囲まれて生活しなければならない。

 どうせ持ってくるなら、オークションにでもかけられるような珍しい本だと嬉しいのだが、そんなものは千冊に一冊程度。

 自分の店だけでもこの有様なのだから、大型店ならば、きっと目玉が飛び出るような数字になっているのだと思う。そして、業界全体としてみたら、きっととんでもない事態になっているのだと思う。

 最近では、大型店の中にも、漫画から撤退するところが出てきたらしい。これを手放しで喜んでいるのは、以前から大型店の進出を自社の売上不振の攻撃対象としていた出版社だけだろうが、大型店が撤退したからといって、すぐに売上に直結するのだろうか。半額でも売れない本を、一体誰が定価で買うのだろうか。いや、俺は買うよ、という方もいるだろうが、あなたが買っただけで解決するような問題じゃないから、いちいち首を突っ込まないように。

 本は永遠。と、常々思っている。本というのは、形もさることながら、その全てが完成されている。本が無くて、何の人生かとも思う。自分は幼少のみぎりより本に対する執着心があった。選択肢の中に本が含まれていれば、十中八九本を選んできた。着る物や食べる物を後回しにしてでも選んできた。他の選択肢が、現代よりもその数が限られていたせいもある。

 なにせ現代は携帯の時代である。本で得る情報量よりも、携帯で得られる情報量のほうが多い。情報の質ははるかに本の方が上だと思うが、量では圧倒的に携帯有利である。しかも、文字通り携帯できるのであるからスバラシイ。故に現代人は、暇さえあれば薄暗くうつむいて携帯をいじるのである。携帯さえいじっていればスバラシイ現代人で、親子の関係すらも携帯を通していればバッチリである。携帯さえあれば立身出世も思いのままで、携帯すらなければ人生は絶望である。携帯があれば上手に踊る事ができるから、本なんか読んでいる場合じゃない。もっと上手に踊るにはもっといい携帯を買わなくちゃならないから、本なんか買ってる場合じゃない。携帯を携帯していないと社会に携帯してもらえない。例え会社に不携帯にされても、社会には携帯してもらえるような気がするじゃない。

 「僕は携帯を持っている」

 この文章が永遠に通用するようになるまで、頑張れ携帯、頑張れ現代人。

本日の売上=4370円(11人)
内訳(
少年漫画?1720円、
少女漫画?700円、
一般書(小説等)?1850円、
雑誌?100円)
買取=2100円(5人)
現金残高=2270円
来客数15
レジ打ち11人
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2002/12/16

12月16日(月)

 元・読売の松井が大リーグへの移籍を決め、また日本プロ野球から一流選手が消えた。

 これにより読売の戦力がダウンするのには一向に憂慮の念を抱かないが(じゃんくまうすさんには怒られるかも知れないが)、プロ野球記録マニアとしては、これでまた過去の記録が氷漬けになってしまうのが非常に遺憾である。

 もちろん、松井がこのまま日本球界にとどまったとしても、王貞治の868本の本塁打記録を更新できるとは思わないが、それにかける期待としては、年齢と技術からしてもやはり筆頭ではあったのだ。

 今、日本球界では、大リーグ移籍がブームである。1シーズンや2シーズンちょっと調子がいいと、すぐに海を渡ってしまう。自分の可能性を海の向うにばかり求めてしまうのは、昔から変わらないのだ。

 満州・ブラジル・ハワイ・北海道(?)と、過去に多くの日本人が夢を叶えるべく海を渡ったが、その多くは尾羽を打ち枯らして非業の最期を遂げているはずだ。私の知る限り、海を渡って成功したのはジョン万次郎と札幌の「じゃんくまうす」さんくらいだ。

 野球で言えば、マリナーズの長谷川くらいだろう。イチローや佐々木、野茂らに関しては、置かれているセクションが日本と同じなので、日本での実績を上回らないうちは成功したとは言えないだろうと思う。

 イチローが投手になるとか、佐々木や野茂が先発と抑えのポジションからそれぞれ替わるなどして成績を残せば別だが。

 まぁ、それはいいとして、自分としては今後の日本プロ野球の楽しみ方が非常に希薄なものになりつつある、と言いたいのだ。成績の良い順番に大リーグへ行かれてしまったのでは、日本は大リーグの選手養成機関になってしまう。

 流出を止めようったって止められるもんじゃないし、また、止めるべきでもない。これによって、日本の野球記録はすべからく昔のものばかりになってしまい、名球界は若い血が途絶えて、絶滅してしまうのだ。

 こうなっては、最早記録云々などと言ってはいられない。まずは日本球界の活性化を最優先に考えて、しかるべく後に、選手が大リーグよりも日本に留まりたいと思えるような環境を作る事をしなければならない。

 ここで私は、唐突に女性選手の採用を提案する。できれば、女性のみの球団の設立を望むものである。筋肉や骨格の関係で、男性選手の体力と同等かそれ以上を期待するのは酷ではあるが、こと技術面においては同じ程度の期待ができるのではないだろうか。

 ジョイナーよりも足が遅く、田村亮子より弱いプロ野球選手が結構多そうだから、初めから無理と決め付けられるものでもないだろう。ただ、精神面での問題はある。闘争本能で闘う男どもに、戦いの支柱が「意地」に負うところが多い女性がどれだけ立ち向かえるか。

 ポジションで言うと、完投できる投手と、ホームベース上で清原の体当たりをはじき返せるような捕手の育成が困難だと思う(もっとも、そんな捕手は男にもいないが)。他のポジションは、訓練次第で誰にでもできるようになるでしょう。

 おそらく、日本に限らず世界中に、野球選手になりたい女の子がたくさんいると思う。ひょっとしたら、来るべき日に備えてこっそりと猛練習を積んでいる子もいるかもしれない。

 自分は決して、どこぞのわがままな国会議員のように、「男尊女卑がどーの」「男性社会がこーの」という立場を採る者ではないが、努力や才能は男女の区別なく認められるべきであると思うから、真の才能や人並みはずれた努力の成果が、隠れたままになっているかもしれないのが非常に歯がゆいのだ。

 それらの隠れた才能を掘り起こさないと、日本の野球選手はヘタレものばかりになって、大リーグに行けない落ちこぼれ集団扱いされそう。

 とはいえ女性選手の育成は、一朝一夕には行かない。これまで、土壌が無いわけだから、試行錯誤の繰り返しになると思う。先に述べた筋肉や骨格の違いといった、生理的な研究だって必要だ。そしてまた、未だ世間に根付いている「女だてらに」といった白眼視との葛藤もあるだろう。それらを少しずつ解決する為には、アマチュア球界の協力が必要になってくるだろう。

 リトルリーグ、高校野球、そして大学や社会人といった我々一般人と極めて距離の近い野球機構が、積極的に女性選手を登用していかなければならないのだと思う。

 いつの日か、女性の野球選手や球団が当たり前になり、「女性選手」ではなく、ただの「選手」になれば、野球はもっと身近で面白いものになるんじゃないかと思う。世界中で日本の野球だけが男女混合で、力さえあれば身体的な欠陥すらハンデにならない。もっと欲を言えば、人間でなくともOKだと良い。

 野球が好きで、努力を怠らない者であれば、万人に可能性がある。そうなれば、誰がわざわざ外国まで行くものか。この世の生けとし生けるものたちの中で、一番野球が上手なものという栄誉をを競うのだから、これ以上魅力的な挑戦があろうかというものだ。

 そういう日が来るのを夢見るほど、私は野球が好きなのだ、というお話でした。

本日の売上=2850円(6人)
内訳(
少年漫画?2300円、
一般書(小説等)?350円、
雑誌?200円)
買取=7150円(7人)
現金残高=?4300円
来客数11
レジ打ち6人

1週毎に売上が半減していますね。そろそろ自分も海を渡ろうかと考えています。
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2002/12/09

12月9日(月)

 昨日から、急に寒さが増したと思っていたのだが、本日夕刻より、とうとう本格的な降雪が始まった。自分の場合は冬が好きなので、霜が降りようと雪が降ろうといっかな平気なのだが、商売的な悪影響には手放しで平気の平左を気どるわけにはいかない。

 だがまぁ、売上が悪いのは今に始まった事でも無し、やるべき事もやれる事もやりたい事も、これまでとさして変わりは無いのである。

 このところまた急に気分が変わり、漫画に対する愛着がさらに薄れてきた。以前から、漫画に対するそこはかとない憎悪があったのだが、先月あたりからはっきりとその輪郭が明らかになってきた。どうも、漫画のせいで売上が頭打ちになっているフシがあるのだ。

 一冊につき100円や200円しか利益の生まない漫画がどんどん増えるせいで、作業的にも楽で利益的にもニンマリの読み物を買ってくれるお客さんを遠ざけてしまっているらしいのだ。

 漫画での利益がその分の損失を補ってくれればまだしも、数字的には決してそうではないし、逆に買取で払わされる金額の分だけ赤字を食っているようだ。と言うのも、先月の買取金額が、漫画の総売上と殆ど同じだったのである。

 もちろん、買取金額の全てが漫画のものではないので、極端に考えるわけにもいかないのだが、普段は買取の90%が漫画であるから、この部分だけでも漫画では殆ど儲かっていないと言える。

 逆に読み物はと言えば、読み物と雑誌の合計が総売上の40%近くを占めているから、買取り金額を考えれば、かなり利益を生んでいると解る。そもそも、漫画の客層と読み物の客層では、落としていってくれる金額に雲泥の差がある。漫画のセットなんて、滅多に売れるものではないが、それと同等の金額を読み物のお客さんは一人で落としていってくれる事がしばしばある。

 さらに、漫画は売れる商品がはっきりと決まっていて、それ以外のものは確実にといっていいほど売れないが、読み物にはそういった偏りが殆ど見られない。 現在当店では、ほぼ確実に売れない漫画セットが日々増えつづけているのだが、これらを無理して買取り続けるよりは、同じ金額で他の同業者から不要な文庫小説でも譲ってもらった方が余程合理的なように思える。

 このところはそういう考えが支配的になっているから、漫画の買取で支払う金額も、商品化する手間も苦痛になってきている。別に、楽に儲けたい訳ではなく、漫画を売れば売るほど、自分が理想とする「古本屋のオヤジ」像からかけ離れていくのがイヤなのだ。

 勿論、一朝一夕に理想像に近づけるとは思っていないつもりではある。様々な時代や経験を経て初めて理想像に極めて近づけるものだと言う事は重々承知してはいるのだが、漫画に偏った商売をしていると、どうもその理想像には永遠に歩み寄れないような気がしてならないのだ。

 基本的に自分はへそ曲がりで、しかも懐古主義的なところがあるので、ハナからゲームやCDには手を付けずに来た。古本屋の生命線と言われるアダルト商品にも、ついぞ力を入れずに来た。先にへそ曲がりと書いたが、へそ曲がりと言うよりは「気まま」なのである。やりたく無い事はやらない、という姿勢なのである。やらなければならない事に敏感でいられるくらいの知恵はあるが、それの好き嫌いで力の入れ具合が変わる。

 つまりどういう事かというと、「古本屋は好きなので続ける。続ける為には経営を成り立たせなくてはならない。でも漫画はもうイヤなので力を抜く」ということになるのである。

 だが果たして、それで経営が成り立つのかどうか、はなはだ不安ではある。

 しかし、もしもそれで成り立ったら、大変な事である。

 正に偉業といっても良いのではなかろうか。

本日の売上=4050円(13人)
内訳(
少年漫画?2020円、
少女漫画?280円、
一般書(小説等)?1250円、
雑誌?500円)
買取=1750円(2人)
現金残高=2300円
来客数20
レジ打ち13人
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2002/12/02

12月2日(月)

 昨日から、店の中をハエが一匹飛び回っている。何故この時期に、と不思議に思う。恐らくヤツも、好き好んでこの季節に生まれてきたわけではないのだろうとは思うが、それでも元気一杯に飛び回っている姿を見ていると、ヤツもあながちこの季節が嫌いというわけでもなさそうだ。

 ハエが好きで好きでたまらない、という人は少ないだろうが、ご多分に漏れず自分もハエは嫌いである。しかも、大がつくほど嫌いである。イマドキ風に言えば、超がつくほど嫌いである。一匹見つけただけで猛り狂って追いまわす事もシバシバある。その際に発生する弊害に気を回す余裕すらなくなるほどだ。

 何時だったか、お客さんに本を手渡す瞬間に目の前を横切られ、咄嗟にその本で叩き落してしまった事がある。

 手が動いた後にはっとしたのだが、お客さんはただ呆然としていた。すぐに謝ったが、ちょっとバツが悪かった。

 とにかく、ハエが大嫌いである。超嫌いである。チョームカツクのである。汚いししつこいし目障りだしで、愛すべき点が一つも見当たらない。顔を撫でている仕草がカワイイ、という人もいるかも知れないが、そんな人とは絶対に仲良くしたくない。

 ハエと同等に扱うべきではないのだが、ハエ的な人がたまにいる。ウロウロと落ち着きなく、しつこくて、奥歯に物が挟まったような物言いをして、可愛げが無い。先だって来たお客さんは、まさにそんな感じだった。

 初めてみる顔の彼は、プレミアコーナーの前に立ち、何度も何度も大きな溜息を吐き出していた。聞こえよがし、という感じだった。客の足元を見て高値をつける悪徳本屋に一言あるぞ!という心の叫びを溜息により表現しているという感じだった。

 「この間、ある店である本を買ったんだけど、高かったですよ」

 彼は唐突に、こんな抽象的な話題を振ってきた。初見のお客さんには、できるだけ物腰やわらかく接するようにしているのだけれど、話の取っ掛かりがいきなりカネの話で、しかもその他の部分が抽象的なのに面食らって、つい普段の口調で返してしまった。

 「はぁ、どこで何を何円で買ったんですか?」

 私のこの問いは、決して常識外れではないと思うのだが、向うにはそれがとんでもなく非常識な質問に思えたらしく、露骨にイヤな顔をして、「ああ、ちょっとね」と意味不明な答えを返してきた。

 答えたくないのならば、初めから語らなければいいものを、と思っても、そこは商売だから、のっけからそうは言わない。10分後にとどめを刺すつもりで、取り敢えずは軽く出方を伺う。

 「まぁ、昔に比べれば全体的に安くはなっているんですが、ものによっては逆に高くなっているものもありますからねぇ。この間、あるお客さんに例の物を売ったんですが、値段がアレだったもんで、可哀想なことをしてしまいましたよ」

 言っている自分でも、例の物とは何か、アレな値段ってなんなのか、まるで意味不明なのだから、聞いている方はまるでチンプンカンプンな筈なのに、向うは「いかにもムベなるかな」といった表情で聞いている。

 だが、恐らくこっちの話なんかは聞いちゃいないのだろう。彼は突然に話を切換えてきた。

 「実は探している本があるんだけど、本屋にタイトルを言うと、思いっきりふっかけられそうだから、黙って探してるんですよ」

 貴様、それを、その台詞を本屋の俺に言うのか! 

「まぁ、そういうケースもあるでしょうが、ものによっては限度がありますからねぇ。まさか『金田一少年の事件簿』に500円は付けないでしょう」

 「いや。そういう本じゃないの」

 「何の本ですか?」

 「いや、ちょっとね・・・」

 「・・・そうですか、じゃあしょうがないですねぇ。うちでは多分出てこないでしょうし」

 「いや、そういう訳でもないんだけど・・・」

 とても埒があかない。話がまるで先に進んでいかない。自分がどうしたいのか、意思表示がなければ手の打ちようがない。病院に行って、どこが痛いのか口を割らないようなものだ。治したくないのなら病院に来るんじゃない。病院に来るのが好き、本屋に来るのが好きというだけなのならば、せめてこちらの邪魔をしないで欲しい。

 もう相手をしたくなくなったので、そのまま会話を切って、袋詰めの作業に移ろうとしたら、彼がまた話し掛けてきた。今度はわりと具体的な内容だった。 

 「後ろの本は、いつ出すんですか」

 そう言われて、何気に後ろを振り向いた。カウンターの背後には在庫用の本棚が3つ設置してあり、様々な事情により陳列棚に置けない本が安置してあるのだが、どうやら彼はこの中にお目当ての本を発見したらしいのだ。

 なるほど。

 じゃあ最初からそう言えばいいのに。

 「ああ、ここに何か欲しい本があるんですか?」 

 極めて優しく聞いたつもりだったが、彼はまた口ごもってしまった。いったいこの男は、どういう種類の人間なのだろうか。ツムジから湯気が出そうになったが、もう一度だけ彼にチャンスをやった。

 「どれですか?」

 「・・・・・・・・いや、別に・・・・・・」

 「・・・・あー、そーですかー。じゃー駄目ですねー」

 「・・・いつ出すんですか・・・・・・」

 「多分出さないと思いますよ。俺、気まぐれだから」

 ごめんなさいね、といって話を切り、彼には暗にお引取り願ったのだが、何故か帰ろうとしてくれない。その上、あろうことか店内をうろつき始めた。ああ、ハエのようだ。これがもし本物のハエならば殺虫剤を片手に追いまわし始めるところなのだが、相手が人間ではそうもいかない。仕方が無いので無視する事に決めて、自分の作業に戻った。

 それから10分もした頃に、彼がまた話し掛けてきた。

 「来週あたりに来れば出てますか?」

 「いや、だから何が欲しいの?言ってくれりゃ今出すよ」

 「・・・・・・・・」

 「ふっかけられるからイヤなの?」

 「・・・・まぁ」

 なんかもう、あ~あってな感じである。初めて会ったその日から、恋の花咲く事もあると言ったのは横山ノックだったが、今回の場合は、血反吐の花が咲きそう。

 「まぁ、うちは仙台で一番評判の悪い店だからねぇ。お客さんにアレって言われりゃ相場の10倍はつけるからねぇ。うち以外の店で探した方がいいと思うよ」

 「そうなんですか?」

 「ああヨ!インターネットの世界でもビシバシ叩かれてっからね、うちは」

 一応、名誉の為にお断りしておくが、仙台で一番という件はともかくとして、ネットで叩かれていると言うのはでっち上げのつもりだ。

 それでも、ネットでうちの悪評を見たことがあるという方はぜひ教えてもらいたい。別にどうこうしようと言うのではなく、単純に興味がある。いや、むしろ誰か悪口を言ってクレマイカと待ち望んでいるフシもある。

 「・・・・・じゃぁ、いいです、もう」

 そう言い残し、彼はようやく帰ってくれた。その後姿を見て瞬時ホッとしたが、何故か自分で吐いた言葉に傷ついている自分がそこにいた。

 これは、どうせ無駄と思いつつ振り回した手に、どうした弾みかハエがつかまってしまい、勢いでそのまま握りつぶしてしまった時の絶望感に似ていたような気もするが、そうともいえないような気がしないでもないので、多分そういうことなのだろうと言う事にとどめておくのが無難なのだろうと思えないでも無いことにしておくのがいいのだろうと思う。

本日の売上=9080円(10人)
内訳(
少年漫画?3430円、
少女漫画?300円、
一般書(小説等)?4050円、
雑誌?800円、
アダルト?500円)
買取=2200円(1人)
現金残高=6880円
来客数不明
レジ打ち10人
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